映画の面白さ満載 「戦争」理解の端緒に
劇映画としての作劇の巧みさや時に強烈なコメディ要素、長回しの撮影の美しさ、描かれる複雑怪奇な状況そのものの迫力など、「映画」の面白さがいっぱい詰まっている素晴らしい作品、とはいうものの、もはや、まさに今現在進行形のウクライナとロシアの戦争を伝える情報、解説、ニュース映像に日々接しているであろう観客にとっては、この戦争をすこしでも真っ当に理解するための、そしてヨーロッパの過去と未来を自分なりに考えるきっかけとなる「映画」になったのではないかと思います。
「世界の未来」予見した
そういう意味では、同じロズニツァ監督が、この作品とほぼ同じころに作った『粛清裁判』と『国葬』は「ロシア」の特異性についての必見の作品だと思いますし、ソビエト連邦が崩壊した1991年に独立して以来、民主主義を求めた市民連合と親ロシア派の間で分裂し、揺れ動き続けたウクライナの歴史から、さらに東欧における「終わらなかった冷戦」の象徴として、『ドンバス』という作品は、観る者の想像力や知的好奇心を強烈に刺激します。数年前に制作された作品でありながら、そこには「世界の未来」の姿が戯画として浮かび上がってくるような感慨もありました。
ロシア映画排除を批判しアカデミーから除名
プレス資料には、ロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナ映画アカデミーがロシア映画上映ボイコットの動きに賛同し、本年度ヨーロッパ映画賞からロシア映画を排除することを明言したことに対し、ロズニツァ監督は「ロシア映画人の中には公然と戦争を非難し政権に反対を表明している人たちがいて、彼らもこの戦争の犠牲者なのだ」と述べ、そのため同アカデミーから除名されたとあります。ロズニツァ監督も「ロシアがウクライナに仕掛けた戦争は、自殺的で狂気の沙汰であり、犯罪的なロシア政権の崩壊を必然的にするものでしょう」と述べています。こうした映画作家の思考や行動のもとに制作される作品から受け取れるものがどれほど大きいか、私たち日本の観客は、もう一度顧みてみることも必要だと思いました。
そのざき・あきお 毎日新聞大阪開発(株)Mエンターテインメント統括プロデューサー
シアターイメージフォーラム(東京) 公開中
ヒューマントラストシネマ有楽町 6月3日〜
元町映画館(神戸)6月1日〜
京都シネマ 6月10日〜
第七藝術劇場(大阪)6月18日〜
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